偉人伝 ロバート・アイガー③#46
かくしてディズニーCEOの座に就いたアイガーがまず行ったことの1つが、ディズニーと喧嘩別れしていたスティーブ・ジョブズに就任の連絡を入れたことでした。「ディズニー復活は、アニメーションの復活にある」と考えたアイガーは、IT時代の申し子であったジョブズと和解する必要があると考えていました。
「ディズニーは変わります」と繰り返し訴え続け、単独で会いに行ったりもしています。
少しずつジョブズもアイガーに信頼を寄せ始め、ある日大きな転機が訪れます。
アイガーのオフィスにやってきたジョブズが、切手数枚分ほどの大きさの小さなスクリーンを見せてくれました。当時発売されていたiPodは音楽を聴くことしかできなかったのですが、これは映像を映し出すことができるものでした。「これに番組を提供してくれるか?」と訪ねるジョブズにアイガーは即答します。かつては何枚も書類を作成し、合意書を書き直したり細かな内容を何度も詰めていかなければ契約にまで至らなかったディズニーの仕事のやり方を変えるというアイガーの決意表明でした。「ディズニーは変わります」という言葉に嘘はない。ジョブズに信じさせるには大きなインパクトを与えた出来事であったと思います。
アイガーは実際にピクサーに足を運んで驚愕します。ディズニーの何歩も先をいっている。ディズニーの未来はピクサーとの統合にあると確信したアイガーはジョブズと、そしてディズニーの取締役と粘り強く交渉を続けます。なかなか歩み寄りを見せなかった両者ですが、アイガーの執念ともいうべき交渉が実り、ピクサーアニメーションでディズニー映画を再び作ることが実現するのです。
この後、マーベル、そしてルーカスフィルムも傘下におさめることに成功したアイガーですが、何より誠意を持って対応することに重きを置いています。そして子会社にするというと、僕のような何も知らない人間はなんか上から物を言って下を従えるというようなイメージを持ってしまうのですが、アイガーの場合はまるで違います。元の会社の持ち味を最大限に尊重し、それでいてディズニーブランドを手がけるという大きなビジネスチャンスを提供する。お互いに手を取り合って良質なコンテンツを作っていくんだという姿勢を貫いています。当然個人としても愛情と信頼を持って接していくその姿勢は人としても見習わなければなりません。ピクサー買収の数年後には、アイガーがジョブズに対して「大株主として聞きたいのだが」というような言い方をすると「よしてくれ。私たちはかけがえのない友達じゃないか」と返したと言います。前代に喧嘩別れをし、しかもあまり人づきあいが得意ではなかったスティーブ・ジョブズにここまで言わせたことが全てを物語っています。
ディズニーのトップたる人物は、ディズニーファンに夢を見させてくれる素晴らしい人格者でした。政界進出も幾度となく噂されているようですが、今のところ可能性は全くないようです。60代も後半を過ぎてもなお、仕事への情熱は色褪せないと語るロバート・アイガー。いろいろな意味で、尊敬に値する人物です。