論語と算盤#20
参考文献
守屋淳著「現代語訳・論語と算盤」
守屋淳著「まんが超訳・論語と算盤」
渋沢秀雄著「父 渋沢栄一」
今回の騒動でどうなるかはわかりませんが、2021年の大河ドラマの主人公であり、2024年から一万円札の肖像に起用される渋沢栄一の代表作。晩年になってから書いたものであるからこその、「偉業を成し遂げた者」の思想が出し惜しみすることなく記されています。
日本資本主義の父と言われる渋沢栄一。三井銀行や王子製紙、東洋紡、東京電力やサッポロビールなど現在においても影響力の大きい企業の設立に携わっています。その数は大小合わせて470にものぼります。
その出自がとても特徴的で、農民の家に育ちながら17歳で維新の志士として志を立て、かの有名な一橋慶喜に仕えることになります。もともと倒幕思想を持っていた渋沢が後の将軍に仕え、そして慶喜の弟の付き人としてパリ万博に派遣されます。パリから戻ってきた時には幕府はなくなっているのですが、大隈重信の推挙により大蔵省の役員として活動していくことになるのです。
しかし次第に「国力強化には実業が欠かせない」という思いが強くなり大蔵省をやめ、実業界に身を置くのです。
まさに経済界のスペシャリスト。ここまで読むと損得勘定に優れ、利益最優先主義の人物であるかのように想像されますが、そんな渋沢が経営の指南書としたのが道徳を説いた「論語」なのです。
簡単に言うと「お金儲けは大切だ。しかしお金儲けさえできれば、他人はどうなってもよいというわけではない。実業とは社会のためになる道徳性のあるものでなければ、国は衰退してしまう」と考えていました。
これは「利益を無視して、社会のために貢献しなさい」というわけでは決してなく、この両者が並びたってこそ国は豊かになっていく。理想論ではなく、現実に即した道徳というものが大切であると論じています。論語と算盤、なんと的を射たタイトルなのだと、思わず唸ってしまいました。
ちょっと読書が苦手な人や若年層向けに漫画版も出ており、いろんな人が現代語訳をしています。全てを読まなくても、序盤だけ読んでも新たな発見をする方は多いかと予想します。今までお札にならなかったことが不思議なくらいの人物である渋沢栄一の著書、一読の価値ありです。