偉人伝 ロバート・アイガー②#45
かくしてABCエンターテインメントの社長に就任したアイガー。ドラマ制作など全くの未経験であったアイガーは社長にもかかわらず、いろんなスタッフに1から教えを乞いに話しかけます。これはトムとダンから学んだ、「自然体で接する」という姿勢でした。しかしそう事は簡単には運ばず、数々の失敗を重ねます。いずれもクリエイターの方針に口を挟んだことに起因していたということに気がついたアイガーは「クリエイティブな人間には全て任せた方がよい。人を最後まで信じ抜くことが大切である」ということを学んだと語っています。かくして取り組んだドラマが大成功。そしてその成功を見届けたトムとダンはキャピタルシティーズを勇退。キャピタルシティーズアンドABCカンパニーの次期社長にアイガーを指名するのです。
ここまででも立派なサクセスストーリー。「アメリカンドリーム」と呼ぶにふさわしい人生なのですが、ここからまた波乱の展開が彼を待っています。
なんとこのキャピタルシティーズアンドABCカンパニーを買収する会社が現れます。これがウォルト・ディズニー・カンパニーなのです。
当時の5代目CEOであったマイケル・アイズナーはディズニー再建を果たした人物として知られ、その時にはまだ珍しかったビデオ販売を手がけたり、いわゆる知的財産のブランディングに力を入れたり、テーマパークの周辺にホテルを建設したりするなど、今では当たり前のようなことを世界で初めて手がけていきました。ディズニー・カンパニーは創業以来の急成長を遂げます。
しかし強烈な個性の持ち主であったアイズナーには好意的な目で見ない人物も多く、かのAppleの創業者であり、当時はピクサーCEOであったスティーブ・ジョブズともあまり良好な関係を築くことができていませんでした。アイズナーは完全独裁主義で、ナンバーツー的ポジションを空位にし、45人のアナライザーにデータの提出を求めました。あくまで決定権は全て自分にあるという体制を敷いていました。
対立することも多かったアイズナーの下からは多くのクリエイターが離れていき、クリエイターとしての才能はなかった彼は次第に追い詰められていきます。映像制作の質も落ちていき、「同じものの繰り返しだ」と揶揄されていきます。さらに時代が変化していき、テレビ一強時代の終焉、CGアニメの台頭などについていけなくなっていきました。一方、ジョブズ率いるピクサー映画は大成功を収め、次第に優位に立っていきます。そして条件面で折り合いがつかなくなり、ジョブズも彼のもとを去ります。ちなみにその映画とは「トイストーリー」や「モンスターズ・インク」今でも大人気の映画ですね。
そして遂にアイズナーはウォルト・ディズニーの甥であるロイ・E・ディズニーとも激しく対立し、業績不振に陥った年の株主総会で失脚させられてしまうのです。
そして次のCEO候補に名前があがったのが、ロバート・アイガーでした。しかし外部から多数の候補者を招聘し、何度となく面接を繰り返したアイガーは重圧に耐えきれずパニック障害に罹ってしまいます。しかしそれでも、今までの人生で培ってきた忍耐力を見せ、ついにCEOの座に就くことになるのです。ここで彼を手助けしたのが、かつての師匠で、その時はアイガーの部下という立ち位置であったルーン。折しも時は2000年を迎えようとする時で、ミレニアム特番をルーンに作ってもらえるようお願いしました。その番組は大ヒット。この実績がアイガーのディズニーCEO就任を後押ししたことは間違いありません。
就任時にアイガーが掲げたことは3つ。
1つ目はブランド力を前面に押し出したコンテンツの作成。そして2つ目はテクノロジーの有効活用。ディズニーチャンネルなどに代表されるような、新しいデバイスでの発信、そこに以前からのブランド力を加えていくという戦略を打ち出しました。
そして3つ目は、グローバリゼーション。今までのターゲットから更に視野を広げ、それを新しいプラットフォームで、ブランドを再構築していくという構想を発表しました。
ここから、ディズニーを変えていくアイガーの戦いが始まります。