現代史・自民党②#55
まるで「東大卒じゃなければ人でなし」「大蔵省出身じゃない人間に何ができる」とでも言うべき自民党総裁選レースに、まさに異色の経歴で割って入った田中角栄。尋常小学校、現在でいうところの中学校卒業という学歴ながらも郵政大臣、通産大臣、そして大蔵大臣を歴任。実学で身につけた圧倒的な知識量と、決めた事は徹底的にやり抜く実行力で多くの人の心を掴むことに成功していきます。全国50位以内に入る土建屋の社長であった田中は、その豊富な資金でここぞという時には多額の金を惜しげもなく使い、当時官僚エリートじゃなければ当選しなかった総裁選に当選を果たし、内閣総理大臣の座を射止めることに成功します。
田中は高度経済成長を追い風にして「日本列島改造論」を打ち出し、交通網、情報網のインフラ整備、都市開発を行っていくと公約に掲げます。これが国民の支持を受け、同名の著書は91万部を売り上げるベストセラーになります。
しかしながら国民がこぞって土地を購入したのと、ほどなくして起こったオイルショックが重なりハイパーインフレが起こります。列島改造論は一定の延期や中止を余儀なくなれてしまいます。
このタイミングで、ファミリー会社が購入した4億円の土地が直後に数百億円に跳ね上がったことを週刊誌に指摘されたり、いわゆるロッキード事件が発覚するなど、国民の支持率は急降下。田中は退陣を余儀なくされ、長い裁判に入ります。これについて田中は「一部の東大卒の政治家と、アメリカの陰謀だ」と主張し、徹底的に争う姿勢を見せました。真実は分かりませんが、アメリカが田中を陥れようとしたとする根拠に日中国交正常化と日本独自のエネルギー外交があったと言われています。オイルショックが教訓となったのでしょうが、アメリカに頼らない独自の政策をしていくという姿勢がこのような事態を招いたと言われています。
この後田中は首相の座に就くことはありませんでしたが、その影響力は絶大でした。「闇将軍」と言われ、自らの息のかかった人物を首相やその他要職に就くように画策します。
この時代は「角福戦争」と言われた時代で、ライバルとなったのが福田赳夫。東大卒、大蔵省出身という、まさに完全無欠の福田は緊縮財政を主張し、首相就任後は経済の引き締めを行いました。インパクト、新鮮味にもに欠ける福田の支持率は常に低く、いつ首相交代劇が起こってもおかしくない状態でした。
福田の後を継いだのが大平正芳。この大平こそが田中の最も優秀な部下の1人で、田中内閣誕生の時にも一役買い、そして福田が再選を狙って総裁選に出馬したときには大がかりな集票作戦を田中の元で敢行し、大差で福田を降す快挙を成し遂げました。下馬評では圧倒的に福田有利だったのですが、予想外の敗戦を喫し、「天の声にも、変な声がたまにあるな」という言葉を残して福田は総裁を退任しました。
ここで落ち着くかと思いきや、大平は在任中に70歳で急死してしまいます。ここでまた田中は動き、大平派の鈴木善幸をワンポイントで首相に就任させます。鈴木は角栄直属ということで「直角内閣」、その後の中曽根内閣は「田中曽根内閣」などと言われ、角栄の影が常に見え隠れする時代が続きます。
田中は裁判が終結したら再び自分が首相を務めるつもりでいました。しかしこの「闇将軍」時代が長く続き、田中派の人々も年齢を重ねます。また田中が首相に戻るようなことがあったら自分たちの順番はまわってこないのではないか、そんな不信感が募り始めたところで登場したのが竹下登。金丸信の後ろ盾を得て、少しずつ仲間を集めていきます。着々と首相への準備をしていたのですが、この動きが田中にリークされ、田中は大激怒。竹下は謝罪に田中の邸宅を訪れるものの門前払いをくらい、大騒動に発展します。
金丸も交えて、なんとか折り合いのついた竹下は経世会という会を結成。田中派の若手のみならず、多くの議員を従える最大派閥に成長し、満を持して首相に就任。しかし僅か1年半ほどで失脚してしまうのです。
歴史は繰り返しますね。田中はロッキード事件により失脚。そして竹下はリクルート事件が明るみに出て失脚することになります。リクルート傘下の不動産会社から未公開株を受け取ったという収賄罪で首相辞任を余儀なくされてしまうのです。
田中角栄の後の三木武夫のように、竹下登の後のピンポイント総裁に宇野宗佑が就任。しかしあっという間にスキャンダルで降板。竹下と同じ早稲田大学卒業の海部俊樹に白羽の矢が立つことになります。宇野、海部、そして宮澤喜一と、竹下派の人間が首相になる時代が続きます。
海部首相の時に幹事長であったのが小沢一郎。この人事が様々な憶測を生み、もともと縁戚関係だった竹下と小沢は仲違い。小沢は羽田孜と共に離党する騒動にまで発展していきます。
ここまで書いて思ったのですが、日本をこう変えたいとか、国民のためにこういう事業を興したいとか、全く出てきません。
とにかく首相になりたい人間の、なんとも感想を持ちにくい人間模様ですね。